一般・患者の皆様へ

Patients and Families

希少疾患への挑戦8

副腎白質ジストロフィーとともに生きる

日々の生活の中で「希少疾患」の患者さんが何を悩み、どのようなことを望んでいるのか、あるいは、どのような接し方をすればよいか、どう接してほしいと望んでいるのかを考えたことがある人は少ないのではないでしょうか。

そこで、希少疾患の患者さんの立場でものを見たり、考えたりすることは大事なことだと考え、今回は「副腎白質ジストロフィー(ALD)*1」という希少疾患の患者さんにお話を伺いました。

*1 副腎白質ジストロフィー:中枢神経系における脱髄や神経細胞の変性および副腎の機能不全を特徴とする疾患。特に、男性において重症化する遺伝病であり、中枢神経系白質、副腎皮質、血清、白血球、赤血球など全身の組織で極長鎖脂肪酸と呼ばれる脂肪酸の増加を認める。日本の指定難病の平成29年度の登録者数は248人。
参考)難病情報センターホームページ
http://www.nanbyou.or.jp/entry/186
http://www.nanbyou.or.jp/entry/5354

症状に気づいてから診断が確定するまでの経緯

多くの希少疾患でそうだと思いますが、わたしの場合も診断が確定するまでに長い時間を要し、多くの病院を転々としました。

もともとスポーツが大好きで、水泳、柔道、テニス、トライアスロンなど、さまざまなスポーツを楽しんできました。しかし、30歳をすぎたあたりから、つまずいたり転倒したりすることが多くなりました。そのうち足にしびれを感じるようになり、近くの整形外科クリニックを受診しました。サーフィンやスノーボードなど、転倒の多いスポーツもやっていましたから、しびれは頚椎捻挫が原因だろうと言われました。しかし症状は一向によくなりません。きっとほかに原因があるはずだと考え、あちこちの整形外科にみてもらいましたが、納得のいく診断結果は得られませんでした。

病名が確定したきっかけは、頭部にできた腫れ物でした。きっと重い病気に違いないと疑って訪れた病院で、週1回の専門外来を担当していた大学病院の先生に診断していただいたことによります。頭部の腫れ物は単なる脂肪の塊だったので、重い病気ではなかったのですが、先生から歩き方がおかしいと指摘され、検査入院することになりました。

一度目の入院は3ヵ月にわたりました。ありとあらゆる検査を行いましたが、病名はわからずじまいでした。少し間をおいて、二度目の検査入院を行いました。このときも2ヵ月間の入院中に診断が下りることはありませんでしたが、退院して1ヵ月ほどしたころに、副腎白質ジストロフィーという病名を伝えられました。

確定診断直後の落ち込みとその後の生活

病名がはっきりするまでは、いったい自分の病気は何なのかという不安がありました。しかし、病名がわかったらわかったで、症状が進むといずれ認知機能が低下してしまうこと、今のところ治療方法がないことを知らされ、この先どのように生きていけばいいのか、途方に暮れてしまいました。

病名がわかったのは結婚から5年目のことで、子どもは2歳になっていました。まだ、よちよち歩きに近い息子と出かけたとき、興味のままに歩き回る彼を止めることも、追いつくこともできません。その後も歩行障害は徐々に進んでいます。平らなところでもよくつまずきますし、転倒します。靴は先がすぐだめになり、3ヵ月ともちません。階段の上り下りもほとんどできません。

また、実生活で最も困るのは、「即時記憶障害」です。別のことに気をとられた途端、それまで行っていたことを忘れてしまう症状です。したがって、複数の仕事を同時に進めることができません。

副腎白質ジストロフィーには、根本的な治療法はないのですが、対症療法として不安を和らげたりこむら返りを抑えたりする漢方薬、排泄コントロールのための過敏性腸症候群治療薬を服用しています。下肢に痛みがありますから、週1回、鍼灸治療を受けていますし、主治医のもとに2ヵ月に1回通い、血液検査も頻回に行っています。

患者目線で見た対策を

副腎白質ジストロフィーは難病に指定され、わたし自身は身体障害者等級で3級と判定されていますので、医療費その他の助成を受けています。身体障害者枠で就職した今の会社では職場の理解もあり、同僚の支えによって働けています。しかし、年収は以前の半分に落ち込み、公的助成があるというものの医療費の自己負担はゼロではなく、特に、公的保険の利かない鍼灸治療の費用が生活に重くのしかかってきます。もっと個々の実情に即した助成制度が整えばと思います。

普段の生活でつらいのは通勤です。駅のホームから転落する恐怖は、ホームドアのおかげでずいぶんなくなりました。すべての駅に早く設置されればいいなと思います。エスカレーターやエレベーターの設置も進んでいますが、上りに比べて下りのエスカレーターが少ないことには困っています。歩行障害者は上りよりもむしろ下りに苦労します。上りが大変というのは健常者の発想です。このような対策は患者の目線で考えてほしいものです。

また、優先席が必ずしも機能していないことも気になります。たとえば、JR山手線では優先席エリアの床、壁、天井の色を赤くし、通常エリアとのすみ分けがより明確になっています。そのおかげで優先席の前に立つとヘルプマークに気づいて譲ってくれる人が多いのですが、一時期すべての座席を優先席にしたある私鉄の場合は、自分が席を譲らなくても誰かが譲るだろうという雰囲気があるのか優先席だという認識が薄い気がします。そのせいか現在では全席優先席は廃止されました。

副腎白質ジストロフィーとともに生きるわたし個人を知ってほしい

ハード面や制度面の整備も大切ですが、副腎白質ジストロフィーについて知ってほしいというのがわたしの一番の望みです。

難病とひとくくりにして、大変だねとか、でも医療費補助があっていいねとかという理解ではなく、この病気にかかった自分をひとりの人間としてわかってほしいと思います。

そして、ヘルプマークを見かけたら遠慮なく声をかけてもらいたい――そうしていただければ、わたしも心から助けてほしいということを伝えることができます。

義足や人工関節を使用している方、内部障害や難病の方、または妊娠初期の方など、外見からわからなくても援助や配慮を必要としている方々が、周囲の方に配慮を必要としていることを知らせることを目的としたマークです。このマークを見かけた場合は、電車で席をゆずる、声をかけるなど、思いやりのある行動をお願いします。

CMIC季刊誌 C-PRESS NO.13 より 転載
(電子ブックが開きます)