希少疾患への挑戦1
急性ポルフィリン症

島根県済生会江津総合病院
名誉院長 堀江 裕 先生

「難病の患者に対する医療等に関する法律」(難病対策法)が平成27年1月より施行された。これにより指定された難病の患者さんに対して消費税を財源とした医療費助成制度が確立した。このような制度に加え、患者さんを医療従事者、製薬企業をはじめ社会全体で支えていくことが重要である。希少疾患には、症状や所見などから診断がつきやすい疾患と、他の疾患との鑑別が難しく診断されにくい疾患がある。とくに後者は医療従事者が見逃すことが多く、診断がつかずに適切な治療が受けられず、苦しんでいる患者さんは少なくない。その一つに急性ポルフィリン症があり、この疾患の研究と治療に長年携わってこられた島根県済生会江津総合病院の堀江裕先生にお話を伺った。

ポルフィリン症外来のご案内東京初

ポルフィリン症の専門医である堀江裕先生が月1回、東京港区の「芝浦スリーワンクリニック」にて月1回(第4金曜日)、外来診療を行っています。(受診は予約制)

医療法人社団エミリオ森口 芝浦スリーワンクリニック
東京都港区芝浦1-1-1 浜松町ビルディング 1階 プラザ 111 内
電話:03-6779-8181
(平日9時30分~午後6時)

急性ポルフィリン症とは

ポルフィリン症は、ヘモグロビンやチトクロムの構成要素であるヘムの合成経路の酵素異常により、中間代謝産物のポルフィリンが体内に蓄積する遺伝性の代謝疾患です。急性ポルフィリン症の代表的な症状としては、激しい腹痛・嘔吐などの消化器症状、不安・不眠などの精神症状、四肢の麻痺や筋力低下などの神経症状があげられます(表)。

罹患率に関する正確な統計は得られていませんが、日本の人口10万人当たりの患者数は1人と推定され、2009年の調査では年間受診者数35人となっています。しかし、この疾患の主訴が腹痛であることから、急性胃腸炎等による一般的な腹痛とみなされ見逃されている可能性があり、実際の患者数はこれよりも多いと考えられます。

遺伝子のキャリアの男女比は同じですが、発症するのは20~30代の女性に多いこと、閉経後に症状が改善することから、女性ホルモンが発症に影響していると考えられています。

(表)急性ポルフィリン症の症状

共通症状
  • ① 激しい腹痛
  • ② 嘔吐、便秘
  • ③ 背部痛、胸部痛、下肢痛、筋肉痛
  • ④ 筋肉の脱力や麻痺、運動麻痺、
    手足の感覚麻痺
  • ⑤ 発汗、微熱、頻脈、高血圧

 

腹痛として見逃されている急性ポルフィリン症

急性ポルフィリン症は血中にポルフィリンが蓄積した時に発作として症状が現れます。診察時に、急性胃腸炎による腹痛が疑われた場合には抗コリン薬や消化管運動改善薬、背中や下肢が痛いと訴えがあった場合には消炎鎮痛剤が処方されることが多いと思いますが、これらの薬剤は急性ポルフィリン症の症状を悪化させます。薬を処方されても症状が改善しないので、結果的に患者さんは複数の医療機関を受診することになりますが、その間、適切な治療が受けられず、我慢できない痛みに苦しむことになってしまいます。もし激しい腹痛などの症状が繰り返し現れ、処方された薬剤で症状が悪化する場合は、急性ポルフィリン症を疑ってください。2015年に発出された日本腹部救急医学会の「急性腹症診療ガイドラインでも、腹部全体の腹痛を訴える患者での鑑別診断として、急性ポルフィリン症が取り上げられています。また、精神症状から心身症と診断されて抗不安薬などが処方される可能性も高いと思われますが、これらの場合も症状は悪化するといわれています。

画像診断では鑑別ができない

消化器症状を繰り返すと、腹部エコーや腹部CTあるいは内視鏡検査が行われると思いますが、これらの検査では急性ポルフィリン症の診断はできません。

体内に蓄積したポルフィリンは尿中にポルフォビリノーゲン(PBG)として排泄されますので、尿検査でPBGを確認することが最も有効な診断方法です。ただし、症状が出ていないときにはPBGは検出されませんので、症状が出ているときの尿検査が必要になります。

また、排尿時にはわかりづらいのですが、尿を放置して紫外線を照射すると尿が赤褐色に変化しますので、それがこの疾患の診断につながります(図)。また、精神症状から心身症と診断されて精神安定剤などが処方される可能性も高いと思われますが、これらの場合も症状は悪化するといわれています。

診断がつけば国際的な標準治療が日本でも可能に

急性ポルフィリン症と診断された患者さんは、できるだけストレスを避けて発作を防ぐことが重要です。ダイエット、喫煙、飲酒なども可能な限り避けなければなりません。もし発作が起こった場合はブドウ糖などの栄養補給を行いますが、それに加えて2013年には治療薬も登場し、患者さんの生活の質(QOL)は大きく向上しました。国際的な標準治療が、ようやく日本でも可能になったわけです。早期に診断され、治療が開始されれば大半は完全に回復しますが、治療が遅れると神経障害などの後遺症が残る場合もあります。

急性ポルフィリン症診断と治療の課題

2015年より難病対策法が施行され、7月には急性ポルフィリン症が指定難病に加わったことで医療費の助成が行われるようになり、社会全体で患者さんを支える体制ができてきました。しかしながら、希少疾患であるがゆえに専門医の数が非常に少なく、専門外来を設けている施設は全国で数か所にすぎません。これからは全国で治療を受けられるように、医療者がネットワークをつくっていかなければなりません。

また、最近では遺伝子診断が可能になっていますので、ご家族にこの疾患の既往歴を有する方がいらっしゃる場合は、遺伝子診断を受けて発作に備える対策をすることを強くお勧めしています。事前にわかっていれば発作が起こった時に対処ができますので、後遺症のリスクを低下させることが期待できるのです。

CMIC季刊誌 C-PRESS NO.5 より 転載
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