希少疾患への挑戦3
小児慢性特定疾病
希少疾病患者を支えるもうひとつの医療費助成制度

希少疾病の患者さんを支える制度として、「小児慢性特定疾患治療研究事業」というものがあることをご存知でしょうか。18歳未満の希少疾病患者さんに対する福祉事業です。

難病に対しては、2015年1月に「難病の患者に対する医療等に関する法律」(難病法)が施行され、それまで法律の裏づけのない不安定な事業であった難病患者への医療費補助制度が安定的になりました。ニュースでも取り上げられ、ご存知の方も多いことでしょう。一方、小児慢性特定疾病対策は、児童福祉法の改正により小児慢性特定疾病が先行して法制度を確立していたのです。

※引き続き治療が必要であると認められる場合は、20歳未満

難病対策と小児慢性特定疾病対策の歴史

難病対策は、スモン病対策が契機となり1972年に公表された「難病対策要綱」で始まりました。徐々に医療費助成の対象疾病は増えましたが、毎年の事業であったため、予算の状況により変わりうる不安定な制度でした。それが、難病法の制定により安定した制度となったのです。

一方、小児慢性特定疾病については、1968年に先天性代謝異常に対する医療給付が始まり、他の疾病に対する医療費助成制度と整理・統合される形で、1974年に「小児慢性特定疾患治療研究事業」が開始されました。当初は、難病と同様に法的な裏付けのない事業のため不安定な制度でしたが、2005年に児童福祉法が改正されて、法律に基づく安定的な制度になりました。

小児慢性特定疾病対策は、医療給付の開始、法律の制定においては、難病対策より先行して進められた制度です。

難病対策と小児慢性特定疾病対策の違い

難病対策は難病を克服するための事業であり、小児慢性特定疾病対策は法律からもわかるとおり児童に対する福祉を目的に制定されたものですので、直接の比較は難しいのですが、医療費助成という観点で比較したものが表1です。

最も大きな違いは、小児慢性特定疾病の対象が18歳までであることです(申請すると最長20歳まで延長されます)。疾病数の面から見ると、小児慢性特定疾病は704疾病、指定難病は306疾病であり、小児に特有の病気や成人を中心とする疾病があるため止むを得ない疾病もありますが、対象疾病は両制度で必ずしも一致しませんので、患者さんによっては、医療費の助成が20歳で打ち切られることもあるのです。


 

表1. 難病・小児慢性特定疾病に対する医療費助成制度

表1. 難病・小児慢性特定疾病に対する医療費助成制度
表1. 難病・小児慢性特定疾病に対する医療費助成制度

また、両制度で疾患の括りが異なるため、疾患数を直接比較できずわかりにくくなっているという面もあります。尿素サイクル異常症という、先天代謝異常症(生まれながらに代謝酵素等に異常があり、生命や発育に支障をきたす疾患)のひとつの疾患の例をご紹介します(図1)。

尿素サイクル異常症は、体で不要となったアミノ酸を複数の酵素で尿素に変える「尿素サイクル」と呼ばれる酵素群のひとつに異常があって、アミノ酸を代謝することができずに、アミノ酸からできるアンモニアが体にたまってしまう高アンモニア血症をきたす疾患群です。異常な酵素ごとにそれぞれ異なる病名がつけられているために、それぞれ別の疾患として扱うと6つになります。

指定難病では「尿素サイクル異常症」として1つの疾患として指定されていますが、尿素サイクル異常症は疾患群のため、小児慢性特定疾病では6つの疾病として掲載されています。


 

図1.小児慢性特定疾病の分類(例:尿素サイクル異常症)

図1.小児慢性特定疾病の分類(例:尿素サイクル異常症)
図1.小児慢性特定疾病の分類(例:尿素サイクル異常症)

望まれる希少疾病患者さんを支えるしくみ

希少疾病の患者さんを支える2つの制度は充実してきているとはいえ、患者さんの立場に立つと、まだまだ不十分な側面が残っています。難病に指定されていないために20歳で医療費助成が打ち切られる疾病があるのもそのひとつです。また、医療費助成だけでなく、こころの支えや就労支援、治療法や治療薬の開発などを充実させ、希少疾病の患者さんを社会全体で支えるしくみの構築が待ち望まれています。

参考資料

1)厚生労働省.“難病の患者に対する医療等に関する法律の概要”.
http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000128881.pdf(2016年11月1日アクセス)

2)金澤一郎.今後の難病対策への提言.保健医療科学,2011,60(2),84-88.

3)第7回小児慢性特定疾患児への支援の在り方に関する専門委員会(平成25年9月9日).
“参考資料1 小児慢性特定疾患対策基本資料集”.
http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12601000-Seisakutoukatsukan-Sanjikanshitsu_Shakaihoshoutantou/0000022423.pdf(2016年11月1日アクセス)

4)政府広報オンライン.“難病と小児慢性特定疾病にかかる医療費助成が変わりました!”.
http://www.gov-online.go.jp/useful/article/201412/3.html(2016年11月1日アクセス)

5)難病センター.“特定疾患医療受給者証所持者数”.
http://www.nanbyou.or.jp/entry/1356(2016年11月1日アクセス)

6)小児慢性特定疾患登録管理事務局.
“平成24年度の小児慢性特定疾患治療研究事業の全国登録状況[速報値]”
http://www.shouman.jp/research/pdf/15_25/25_02.pdf(2016年11月1日アクセス)

CMIC季刊誌 C-PRESS NO.7 より 転載
(電子ブックが開きます)

医療従事者向け「希少疾病情報」ページ
[要医療従事者確認]